現行アナログテレビ放送、このまま終了してよいか?  更新:2011-02-06
地上アナログ放送「終了延期」プロジェクト/サイトのタイトル
地上アナログ放送「終了延期」プロジェクトのサイト  開設:2011-01-24

「地上デジタル放送(地デジ)完全移行の延期と
現行アナログ放送停止(アナログ停波=放送終了)の延期を求める
「10の根拠」

≪はじめに≫

 この「10の根拠」は、2010年7月17日(土)に東京・四ッ谷で開いた「地上デジタル放送完全移行の延期と現行アナログ放送停止の延期を求める」記者会見・提言発表(発起人はジャーナリスト・坂本 衛、青山学院大学名誉教授/弁護士・清水英夫、立教大学社会学部准教授・砂川浩慶、元共同通信社編集主幹・原 寿雄)で、提言とともに発表したものです。

 地上アナログ放送「終了延期」プロジェクトのサイトに掲載するにあたって、各項目ごとに 追加の情報 として随時、最新のデータに基づく解説を加えていきます。

≪このページの目次≫

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【1】地上デジタル放送対応テレビの絶対数が足りない。

地上デジタル受信機の累計出荷台数は2010年6月末で7783万台と、2011年7月段階で目標の1億台(数年前からの予測台数)に到達するペースである。しかし、これはチューナーを内蔵する薄型テレビ(液晶・プラズマ)、同じくDVD/HDDレコーダー、ケーブルテレビ用STB、チューナー単体、地デジチューナー内蔵パソコンなどの数を単純に加えたもので、当然、重複が大きい。テレビがなくてVTRデッキだけを買った人がほとんどいなかったように、ハイビジョンテレビがなくてレコーダーや単体チューナを買う人はほとんどいない。一家に一台のテレビを「パソコンでよし」とする家庭もきわめて少ない。STBを持っていて地上デジタル放送を見たい人は、ハイビジョンテレビを買うのが普通である。したがって「テレビの世帯普及率」は、「地デジ対応テレビが世帯にどのくらい行きわたっているか」を数えて割合を算出するしかない。

地デジ対応テレビの累計出荷台数は2010年5月段階で4923万台、2011年7月段階では7000万台前後と見込まれる。これは、地デジ開始前に日本にあったアナログ対応テレビ1億2000万〜3000万台の半分強にすぎない。この台数は、多くの家庭で台所、年寄り部屋、子ども部屋、寝室などに置かれた2台目以降のテレビがなくなることを意味し、視聴者のデメリットは大きい。しかも、所得が比較的高い世帯はテレビを2〜3台以上買い、事業所(約600万、うち民間約150万社)も1000万のオーダーでテレビを買うほか、すでに買い換え需要(古いハイビジョンが新しいハイビジョンに替わるだけで、普及に寄与しない)が発生しているから、この台数ではテレビを持たない世帯が生じてしまう。テレビの視聴機会(番組の総視聴量)が大幅に減るため、NHKの受信料収入減や民放の広告収入減にも直結する。

 追加の情報 

■地デジ対応受信機の累計出荷台数は、2010年12月末に1億300万6000台となった。10年1〜12月の合計は3627万台で、2003年から始めたものが7年目の1年分だけで全体の3分の1以上を占めるという異常な台数となった(09年1〜12月の合計は2083万台)。その理由は、第1に「エコポイント」という政府の対メーカー補助金が効を奏したこと(とくに、それが締め切られるという情報によって駆け込み需要=需要の前倒しが喚起されたこと)、第2にBD(ブルーレイ)レコーダなどテレビ以外の受信機の伸びが大きかったことである(テレビ以外は08年566万台、09年725万台、10年1108万台)。

 一般的に「どうしても絶対に必要なもの」の需要は、販促商品券の配布締め切りといった期限にはあまり左右されない(必要なものはいつでも必要なので)。また高額商品の需要も、期限にはあまり左右されない(資金的に余裕がある人が買うので)。以上と、テレビ以外の受信機の伸びが大きいことを考え合わせると、10年秋以降の出荷台数に、2台目・3台目の小型テレビやBD(ブルーレイ)レコーダなどテレビ以外の周辺機器の占める比率は、かつてないほど高いものと推測される。それらは、1台目の居間に置かれるテレビではないから、受信機の大幅な伸びほどに地デジ普及世帯が伸びていないことは、間違いないと思われる。

■一方、地デジ対応テレビの累計出荷台数は2010年12月末に6706万1000台となった。10年1〜12月の合計は2518万台(9年1357万台、8年は955万台)。うち10月283万台、11月396万台、12月387万台。前述のように、10年暦年や10年第4四半期の台数の過半数が2台目以降のテレビだった可能性が大きい。

さて、問題は、2011年7月24日段階に「地デジ対応テレビがどのくらい出荷されているか」である(地デジ対応テレビの世帯普及率=「地デジ対応テレビが世帯にどのくらい行きわたっているか」については、次の項で扱う)。

 10年10〜12月各月のテレビ出荷台数が「エコポイント」締め切り終了効果によるもので、同制度終了(11年3月末)以降に出荷台数が減ることも考え、2011年1月〜7月までに毎月300万台のテレビが出荷されると仮定する(かなり過大な見積もり)。すると、2011年7月段階までに上乗せできるテレビ台数は、300万×7か月=2100万台である。したがって、2011年7月段階における地上デジタル放送対応テレビの台数は、6700万+2100万=8800万台。実際には、おそらく八千数百万台前後か、それ以下だろう。

 11年7月に8800万台としても、アナログ時代に日本にあったアナログ対応テレビの台数1億2000万〜3000万台の68〜73%程度にすぎない。つまり、今後かなりのペースで地デジ対応テレビの出荷が進んでも、2011年7月24日段階でアナログ時代の古いテレビのうち3分の2〜4分の3程度しか、地デジ対応テレビに置き換わらない。この台数は、地上アナログ放送を終了する(アナログ停波する=地上デジタル放送に完全移行する)には少なすぎる。この台数ではテレビを持たない世帯が生じてしまう。テレビの視聴機会(番組の総視聴量)が大幅に減るため、NHKの受信料収入減や民放の広告収入減にも直結する。

【2】80%以上とされる地上デジタル放送の世帯普及率(総務省発表)は、実態と大きくかけ離れている。

■総務省が発表した「地上デジタルテレビ放送に関する浸透度調査」(以下「浸透度調査」)が示す3月時点での地デジ普及率83.8%は、以下の理由から、正しい普及率を示しているとは到底いえない。

(1)RDD法(Random Digit Dialing=ランダムに生成した番号に電話)により電話を30万本かけ、通じた家庭に「地上デジタル放送に関するアンケート調査票を送ってよいか」と聞き、「よい」と答えた家庭だけに郵送し回収する。したがって、電話がかかる時間帯に不在がちの単身世帯、共稼ぎ世帯、主婦がパート勤めの世帯、携帯しか持たない若者世帯、「よくわからない」「面倒くさい」と答えがちな高齢者世帯、「受信機を持たない」「購入する余裕がない」など調査に非協力的な世帯が、高い割合で調査から漏れている。

(2)厚生省の2009年「国民生活基礎調査」によると年収400万円未満世帯は全体の46.5%。浸透度調査の年収400万円未満世帯(4822サンプル)は全体(1万2875サンプル)の37.4%。つまり浸透度調査は所得が比較的高い層に大きく偏っており、実態をまったく反映していない。

(3)理由は不明だが、都道府県によってサンプル数が大きく異なる。面積8万3456平方キロと国土の22%を占め人口552万人(10年3月)の北海道は402サンプル。面積2276平方キロと香川・大阪・東京についで小さく人口138万人(09年10月)の沖縄は1012サンプル。社会調査の専門家によれば、「少なくとも、なぜそのようなサンプリングをしたかの理由を明記すべき。それがないから信頼性に欠ける調査だ」という。

(4)調査票の郵送を拒否した者を除く調査は、「調査に協力的なグループ」だけをピックアップした調査であり、普及率調査にはなじまない。メーカーが商品開発や拡販の参考にするため「好きな酒の種類は?」と聞く調査ならば、酒嫌いで調査に非協力的な者を排除してもかまわないが、60年近く続いてきた日本のテレビ放送を全停止するという判断の参考にするために聞く調査で、調査に非協力的な者を排除してはならない。特定グループでなく日本人全体の傾向を知る必要があるからだ。複数の地域での限定的な全数調査や、より信頼のおける訪問調査をすべきである。

■現時点での確からしい世帯普及率は、せいぜい60%台であると思われる。根拠は次の通り。2003年12月から2010年春まで6年以上かかってようやく60%台に達した世帯普及率を、あと1年で100%にすることは不可能である。

(1)二人以上世帯を対象にした2010年3月の内閣府消費動向調査では、薄型テレビの普及率は69.2%である。この調査は、浸透度調査よりは科学的・合理的で信頼できるが、(イ)モデル化のための調査であり、高所得者層に偏りがちとされる。(ロ)単身者1000万世帯(うち高齢者単身世帯400万)を対象としていない。(ハ)薄型テレビにはハイビジョンテレビのほか、アナログの薄型液晶を含む(2006年1-12月の薄型テレビ出荷台数はプラズマ76万・16対9液晶453万・4対3液晶106万だから、薄型テレビの6台に1台は地デジ非対応だった。さらに年次を遡れば地デジでない薄型テレビの比率は上がる)。69.2%から(イ)〜(ハ)による底上げ分を除けば、世帯普及率は60%台以下である。

(2)調査手法から、結果的に調査に非協力的な世帯や単身者世帯などが除かれる浸透度調査によっても、地デジ対応テレビのある世帯の割合は75.3%、地デジ放送を実際に視聴している世帯は72.4%にすぎない。調査手法による底上げ分を1割とごく控えめに見積もっても、普及率は60%台以下である。

 追加の情報 

■2010年7月段階の提言で触れていない大きな問題は、総務省の調査が、80歳以上の個人(日本に827万人いる)を対象としておらず、その結果、80歳以上の者だけで構成される約250万世帯(単身世帯約150万、夫婦世帯約100万で、日本の全世帯5000万の約5%)の普及率がまったく調べられていないことである。 

80歳以上世帯は、所得(多くは年金暮らし)、知識(新しい機器に弱い)、判断力や体力(若者より衰えている)、周囲の環境(住居の状況、相談する人の有無など)から、地上デジタル放送への対応が若い世帯よりも遅れがちなことは、火を見るより明らかである。

しかも、この世帯は、パソコン(インターネットへの接続環境)や携帯を持たず、テレビを生活の唯一の友にしている場合が多い。総務省は、その世帯の普及率を調べていないどころか、その世帯が何百万あるかすら、つい最近まで知らなかった。

仮に、80歳以上世帯の地デジ普及率が11年7月段階で50%ならば、総務省が「地デジ普及率が100%に達した」と宣言したとしても、実際の普及率は97.5%にとどまる。総務省の発表する地デジ世帯普及率なる数字が、地上アナログ放送を終了する(アナログ停波する=地上デジタル放送に完全移行する)際の前提や根拠にならないことは、明白である。

■「10年9月段階で地デジ普及率90.3%」という総務省のデータと、「現実の地デジの世帯普及率」(日本の全世帯のうち地上デジタル放送を見ている世帯の割合。もちろん80歳以上のみで構成される250万世帯を含む)は大きく異なる。総務省の調査結果は、まったく信用できない。

その異なる幅は、数ポイント(数%)どころではなく、10〜20ポイント(10〜20%)程度に達すると思われる。2010年後半に実施された、NHKの調査(経営企画室によるもの、受信料収納部門によるもの、放送文化研究所によるものなど)やビデオリサーチの調査で得られたパーセンテージは、いずれも70%台前半であり、私たちの見解や推計のほうが現実に近いことを裏づけている。

【3】所得が比較的低い層の地上デジタル放送への対応が間に合わない。

■調査手法に問題がある浸透度調査でも、年収200万円以下世帯の地上デジタル受信機(テレビ以外を含む)普及率は67.5%で、全体より5ポイント以上も低い。また、同調査で受信機を持っていない理由を聞いたところ、「経済的に地上デジタル放送に対応する余裕がない」との回答が4割に上った。所得が比較的低い層を含めた全世帯の地デジ対応は、あと1年では間に合わない。

■浸透度調査における地上デジタル受信機(テレビ以外を含む)普及率の都道府県別の状況を見ると、トップの富山県88.8%と最下位の沖縄県65.9%で約23ポイントと大きな差がある(沖縄における地デジ対応テレビの世帯普及率は50%以下と思われるが、それはさておき)。このように大きな地域差を、あと1年で解消することは不可能で、地デジ完全移行・現行アナログ放送の全国一律停止(一斉停波)はありえない。テレビ放送は社会の重要インフラであり、地域の実情に応じたきめ細かな対応が必要である。

■NHKが低所得者層として想定する「NHK受信料全額免除世帯」(生活保護世帯や身障者世帯その他)は最大270万世帯である。しかし、総務省資料によれば、2010年3月1日現在の地デジ支援申し込みは約63万件にすぎない。200万を超える未対応世帯への対応は、あと1年では間に合わない。関係者によれば「簡易チューナー設置工事とわかると、生活保護を受けていることが近所にわかってしまう。夜中に来てもらえないか」との相談が少なくない。こうした懸念が、支援申し込みが伸びない理由の一つと思われる。

■厚生労働省によれば、日本には生活保護世帯が134万世帯(10年3月現在)あり、そのほかに所得が生活保護基準を下回る世帯が229万世帯(全世帯の4.8%)ある。10年4月に公表された、2007年の厚労省国民生活基礎調査のデータに基づく社会・援護局保護課の推計による。以上を加えると363万世帯で、NHKや総務省が最大と見込む地デジ支援対象から、なお100万世帯が漏れている計算である。これは「年金所得だけを見れば生活保護基準以下だが、持ち家がある」など資産を持つ世帯を除いたデータであり、資産を考慮しないフロー所得だけで見ると、最低生活費未満の世帯は約597万世帯(全世帯の12.4%)に達する。2008年9月のリーマン・ショック以降、この数はさらに増えていると思われる。「家も車もあるが、夫婦の年金収入だけでは、生活が苦しい」といった世帯(家や車を売り払って地デジ対応するわけにはいかない)を含めた「生活保護基準を下回る世帯」の地デジ対応は、あと1年では間に合わない。

 追加の情報 

■総務省は「NHK受信料全額免除世帯」(生活保護世帯や身障者世帯その他)など最大270万世帯を、地デジ支援が必要な経済的弱者(低所得層)と位置づけ、簡易チューナーを配布しアンテナ工事をおこなう支援策を続けている。

 しかし、支援の申請(申し込み)は遅々として増えず、2010年3月1日に約63万件だった申請は、10年9月末に97万件、10年11月末に約103万件(以上いずれも累計)。こんな調子なので、申請締め切りを2009年12月末→2010年2月→2010年7月2日→2010年12月末と、だらだら延長し続け、現時点ではとうとう締め切りを2011年7月24日とした(現在のペースでは、7月24日に申請した者がテレビを見ることができるのは早くても9月以降と思われる。このままでは台風シーズンにテレビが映らない障害者世帯が多数生じてしまうだろう)

■総務省が場当たり的に何度も締め切りを延ばすのは、総務省の支援計画が「経済的な弱者に市町村や障害者団体などを通して間接的に呼びかけ、その経済的弱者からの自発的な申請を待っているだけ(申請があればカネは出す)」のことで、どの家が支援の対象かわからず、最大270万世帯のうち何十万世帯はいつまでに対応を済ませる(ことを目標とする)というような期限を切った工程表が一切存在しないからである。当然、想定する支援を完了できる見通しがまったく立っておらず、そもそも何をもって最終到達点(完了)とするかもわかっていないと思われる。ようするに告知や周知徹底の方法のみならず、明らかに計画(の立て方)そのものに問題がある。

 しかも、実際に支援申請した障害者の家族によれば、「10年秋に申請したら、連絡がきたのが、ようやく11年1月末だった。それも電話があっただけで、その後は何も言ってこない」という。総務省資料によっても、10年9月末の時点で累計97万件の申請があったうち、対応を済ませたのが55万件で、実に42万件が「対応中」だった。こんなスローペースでは、11年春または5〜6月に申請した経済的弱者の世帯で、11年7月24日以降にテレビが失われる恐れがきわめて強い。

■さらに、総務省は「NHK受信料全額免除世帯」への支援に加えて、市町村民税非課税世帯のうち地デジ未対応の世帯(総務省は最大156万世帯程度と推計)に簡易チューナーの無償給付と電話サポートという支援をおこなうことにした(22年度補正予算での事業費39億円、23年度予算での事業費62億円)。

 「NHK受信料全額免除世帯」の支援申請が、最大見込み数270万の4割にも達しない(2010年9月段階で対応を済ませたのは270万の約20%)段階で、新たな支援策を打ち出したのは、これまでの支援に問題があると自ら認めながら、なお同じような問題をかかえる別の支援策に手を広げていることを意味する。無責任なバラマキ施策というほかはない。

【4】主として低所得者向けの簡易チューナー普及策がうまくいっていない。

■簡易チューナーの配布は、地上デジタル対応テレビを買うことができない低所得者向けの施策であるが、次のような問題点がある。前項【3】の低所得者層全体の把握がおこなわれていないことと合わせ、普及策はうまくいっていない。

(1)簡易チューナーを接続した「古いアナログテレビ」が壊れたら、結局「新しい地デジ対応テレビ」の購入を強要されてしまう。仮に簡易チューナーが500万台普及したら、それを接続した古いテレビ500万台のうち30〜50万台が1年以内に壊れても不思議はない。古いテレビの寿命は10〜15年ほどだからだ。この30〜50万世帯が入手して1年以内にゴミと化す簡易チューナーは、無償配布されたものならば総務省予算の、5000円で買ったものならばその世帯の、ムダづかいである(だから低所得者は簡易チューナーを買ってはいけない)。もちろん2年目以降も同様のことが起こる。

(2)「簡易」という名が示すとおり、ハイビジョンもデータ放送も双方向サービスも機能しない。EPG(電子番組表)も簡易版で、デジタル放送の機能を十分に発揮できない製品も多い。

(3)低所得者層が対象である簡易チューナーを接続する古いテレビは、14〜21型以下の小型である場合が多い(3対4テレビの出荷台数の6割が21型以下)。これにレターボックスの横長画面を表示すると画面が大幅に縮小されてしまい、視力が弱い高齢者などユーザーの評判がきわめて悪い。

(4)簡易チューナーを接続したテレビが映らなくなったとき、ユーザーの多くは簡易チューナーが悪いのかテレビが壊れたのか接続が問題なのかわからない。苦情を受けるメーカーも二の足を踏み、とくに大手メーカーは簡易チューナーを製造していない。主要メーカーが本腰を入れない製品が普及する見込みは薄い。

 追加の情報 

■前項の[追加の情報]を参照のこと。

【5】集合住宅、都市難視聴地域、山間部(いわゆる「辺地」)などの共聴受信施設の地上デジタル放送への対応が大幅に遅れている。

■集合住宅の地デジ対策(アンテナ・ケーブルの改修や新設など)は、管理組合が対応するため、09年度に工事の方策を決め、10年度に実施するというスケジュールで進めることが重要で、11年度の工事実施では間に合わないとされていた。しかし、多くのマンションやアパートが、工事の決定に至っておらず、11年度に着工する目途すら立っていないところが多い。2010年7月5日の情報通信審議会「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割(第7次中間答申)」によれば、集合住宅共聴施設の対応済み率(未確認の施設は未対応に含む)は、施設数で77.3%(10年3月、世帯数では約81%)であり、目標の80%を下回っている。なお、大家(管理者)が近くに住んでいない小規模アパートなどは、未確認・未対応の施設に含まれるはずだが、その数が正確に把握されているかどうかは大いに疑問である。対応済み率100%までに、あと1年では間に合わない。

■総務省のデータによると2009年末の「受信障害対策共聴施設」(約5万施設、約608万世帯)のデジタル化対応済み率は25.8%だった。上記「果たすべき役割」によると、2010年3月の対応済み率は、施設数で47.8%(世帯数で約51%)と、目標の50%を下回った。対応済み率100%までに、あと1年では間に合わない。

■「辺地共聴施設」(約2万施設、約149万世帯)は基本的にNHKが対応することとなっており、対応済み率は、2010年3月末に施設数の約60%である。地域や施設によって事情が異なり、対応済み率100%までに、あと1年では間に合わない恐れがある。

【6】とりわけ南関東地区(人口が多い東京・千葉・埼玉・神奈川)で地上デジタル放送への対応が大幅に遅れている。

■地上デジタルテレビ放送はすべてUHF帯を使い、VHF帯は使わない。南関東地区ではこれまでの視聴環境からUHFアンテナを設置済みの世帯・施設が少ない。しかも、デジタル化未対応のマンションやアパートが多い。総務省のデータによると、南関東の集合住宅の対応済み率は2009年末時点で40%前後と、全国平均を大きく下回っている。上記「果たすべき役割」でも、「UHFアンテナが設置されていない集合住宅が多数存在すると考えられる南関東(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県)では、全ての都県で、対応済み率が60%を下回っている」(2010年3月時点)とされる。対応済み率100%までに、あと1年では間に合わない。

 追加の情報 

■執筆中です。しばらくお待ちください。

【7】関東広域圏における地上デジタル放送の必須条件とされるスカイツリー(東京・墨田区の600m級電波塔)は開業が2012年春、フルパワー送信が2012年暮れとされ、2011年7月に間に合わない。

■いま関東広域圏に地上デジタル電波を送っている東京タワーでも、2003年12月の地上デジタル放送開始から2005年12月のフルパワー送信までに2年間を要した。この期間を見込まず、スカイツリーが機能しないまま、地上デジ完全移行・地上アナログ放送の停止を強行することには、次のような問題がある。この無用な混乱は避けたほうが得策である。

(1)2011年7月時点で東京タワーにアンテナを向けている地デジ受信世帯・事業所のうち、スカイツリー方向にアンテナの向きを変える必要のある世帯・事業所が発生する。

(2)スカイツリーからの電波を受信することで新たなデジタル難視が発生し、デジタルリパッキング(周波数再変更)の必要も生じる。

(3)スカイツリーから電波を発射するのであれば必要のない中継・再送信施設や難視聴対策などが、ムダな投資になってしまう。

 追加の情報 

■いま想定されているスカイツリーの運用計画(東京タワーからの切り換え)は次の通り。

2011年12月
スカイツリーにデジタル放送の送信機(送信設備)を設置。
2012年1〜2月頃
スカイツリーから試験電波の送出を開始。
2012年1/2月〜2013年1/2月
1週間に1〜2回の頻度で真夜中にスカイツリーから試験電波を送出(送出中は地上デジタル放送で番組を流さない。在京キー局はそのようなプログラムを組む)。関東一円にどれだけ電波が飛ぶか、混信その他どんな問題が生じるかをテスト。シミュレーションを繰り返し、障害を取り除いていく。
2013年1〜2月頃
東京タワーの運用終了=スカイツリーの運用開始(段階的増力はせず、東京タワーから一気に切り換え、フルパワー送信する。段階的に出力を上げていくと、東京タワーとの混信問題を解決できないため)。東京タワーは予備タワーとし、年に数回、放送中止時間に試験電波を出す。

■上記(1)は、「2012年1〜2月頃まで東京タワーにアンテナを向けている地デジ直接受信世帯・事業所のうち、スカイツリー方向にアンテナの向きを変える必要のある世帯・事業所が発生する。」と訂正。

 地デジ・スカイツリーに詳しい専門家は、アンテナの向きを変えなければならない世帯・事業所は「それほど多くない。たぶん1万以下で、数千」という。これは、(1)両タワーから遠い場所では、両タワーがだいたい同じ方向になるため、向きを変えなくてよい。(2)両タワーから近い場所(たとえば23区内)では、電波が強いことと、ビル壁面その他による反射波を拾って映ることから、向きを変えなくてよい場合が多い。(3)両タワーからごく近い場所のうち、両タワーを結ぶ線上にある場所では、アンテナの向きが真逆となるが、真逆ならば映る場合が多い。(4)そもそも23区内ではベランダに針金をぶら下げたって方向さえ合えばたいてい映るはずだ(筆者ではなく、民放でスカイツリーにもっとも詳しい技術トップがそう言った。おススメはしない)──などによる。本当にそうなのか、ビル陰や、共同住宅などでタワーと反対側にある低層(ビルふもとにある)住戸などでは、そううまくはいかないのでは、という疑問が残る。これについては精査中。

■ただし、両タワーを結ぶ線分を直径とする円上の場所(ドーナツ型のエリア)では、両タワーを見る角度が直角(90度)になる(円周上に二点ABがあるとき、弦ABが直径ならば、弧ABに対する円周角∠APBは直角。なぜならば、円の中心をOとすれば△POA△POBともに二等辺三角形。だから、その底角を二つずつ加えた角度=△APBの内角の和=2∠R。よって、底角を一つずつ加えた角度=∠APB=∠R)。そのような場所(直角か直角に近くなる場所)では、アンテナの向きを変える必要がある。自分の家から両タワーを見る視線がつくるおよその角度は、次のリンク先で住所を入力すれば確認できる(どうでもよい情報ながら、坂本衛宅のベランダに設置したアンテナの向きは、変えなければダメポ。分度器を当てたらジャスト80度)。

 ベランダなどに自分で地デジ・アンテナを設置する人は、上のサイトで住所を入力。Google地図に表示される線上にある建物を目印として仮設置。それからテレビなどのデジタル受信信号表示(うまく受信できているときほど数値が高くなる)を見ながら微調整するとよい。

【8】ケーブルテレビのアナログ再送信は、地上デジタル放送に逆行する施策であって、ムダである。

■ケーブルテレビでのアナログ再送信(デジタル放送をアナログ変換して再送信する)は、アメリカの施策を真似たものである。そもそも(視聴者側から見て)ケーブル受信が主で直接受信が少ないアメリカの施策を、そのまま日本で採用することに無理がある。ケーブルテレビ関係者は「事業者ごとに事情が違い、一律には対応できない」という。ケーブルテレビ会社には小規模な事業者が多く、地方自治体との第三セクターなどもあり、アナログ再送信の期限やコスト負担が過重となるケースが少なくない。計画を延期すれば、ムダなアナログ再送信を避けることができる。

【9】2011年7月に地デジ完全移行・アナログ停波を強行するときNHK、民間放送局、総務省にかかるコスト(収入減を含む)よりも、延期したときかかるコストのほうが小さいと見込まれ、放送局や国(総務省)にとってのメリットが大きい。

■計画を延期したとき放送局の費用で問題となるのは、アナログ・デジタルのサイマル放送コストである。次のように、それは過重な負担とはいえない。

(1)NHKの福地茂雄会長は「NHK総合・教育のサイマル放送コストは年60億円」と発言している。民間放送局も系列ごとに15〜30億円程度と見込まれている。NHK1チャンネルあたりの数字を民放4.5系統でかければ、放送局(NHKと全民放)のサイマル放送コストは約200億円となるが、精査すればさらなる減額も可能と見られる。

(2)NHKについては、サイマル放送コスト60億円は受信料収入約6500億円の1%未満にすぎない。一方、視聴者の地デジ対応コストは、小型テレビ7万円・アンテナ工事費3万円として10万円(大型のハイビジョンを買い、アンテナケーブルの室内配線工事をすれば、さらに高額)。ところが、地デジ対応コストが年収の1%以下で済むのは、所得が高い年収1000万円以上の世帯である。年収200万円世帯で10万円は5%、300万円世帯で3.3%、400万円世帯で2.5%、500万円世帯で2%であり、地デジ対応コストは日本の過半数の世帯で年収の2%を上回る。しかも、NHKが映る受信設備を設置した者がNHKに支払う受信料は、BS分を含めて年に2万円以上だから、年収200万円以下の世帯では受信料だけで年収の1%を超えてしまう。つまり、日本の家庭の5軒に1軒(1000万世帯)は、地デジ対応コストに年収の5%を投じ、これとは別に年収の1%を受信料としてNHKに(過去も将来もずっと)支払うわけである。以上の負担を国民に強いるのだから、NHKは、3年程度負担すれば済むサイマル放送コストが過重な負担とは、到底いえない。

(3)民間放送局については、15〜30億円程度のコストはNHKと同様に年収(売上高)の1%程度である。一般的な家庭の地デジ対応コストと比較して過重な負担とは、到底いえない。

■計画を予定通り強行したとき放送局で問題となるのは、大幅な収入減である。次のように、そのマイナス分は、延期したときに必要なコストを大きく上回ると見られる。

(1)NHKが、地デジ対応が間に合わなかった世帯や事業所から受信料を1円たりとも徴収すれば、それは「放送法違反」である。明確な罰則はないが、NHKは自らが放送法違反をしながら「放送法に基づいて受信契約をしてくれ」と頼むわけにはいかないから、地デジ対応が間に合わない世帯や事業所の受信料を返上しなければならない(受信料が取れない)。仮に地デジ対応が間に合わない世帯が500万あり、その9割がもともとNHK受信料を支払っていない世帯だとしても、受信料を返上すべき世帯数は50万に達する。その受信料平均が年1万5000円ならば、返上すべき受信料額は75億円。したがって、地デジ対応が間に合わない世帯が発生したときの受信料収入減が、サイマル放送コスト60億円より巨額になることは間違いない。なお、放送法はNHKが放送電波を止めることを想定しておらず、その際に受信契約をどうするかなど具体的な対応策は一切示されていない。

(2)民間放送局は、地デジ対応テレビの数が7000万台前後と、アナログ時代の1億2000〜3000万台から大幅に減るため、広告収入が減る。アナログ1億2000万台がデジタル8000万台になると多めに見積もっても、テレビの台数は3分の2(66.6%)に減る。すると、テレビの視聴機会や番組の総視聴量が最大3分の2に減ってしまう。もっとも家庭にある2台目以降のテレビは1台目よりも稼働率が低いから、現実にはそこまで減らないが、減ることは確か。日本にあるテレビの台数が以前の3分の2に減れば、広告主企業は放送局に広告費の値下げを要求して当然である。その値下げ幅が1%で済むとは考えられず、計画を強行する際の広告収入減がサイマル放送コスト(年収の1%)より巨額になることは間違いない。値下げ幅が10%ならば、民間放送局の年収は10%減ってしまう。

総務省の地上デジタル放送関連予算は2010年度に約870億円(経済的弱者に対するチューナーの購入等の支援337.5億円その他)である。これは計画をあと1年でむりやり強行するために予算化した金額であって、計画を延期すればこれほど必要ない。たとえば、あと1年のところ猶予期間が3年あるとすれば、低所得者は3年間で地デジ対応テレビを買いアンテナ工事をすればよく、1年あたりのコストが3分の1に減る。したがって機器の購入支援が必要な世帯数が減り、支援コストも減る。日本のテレビの買い換え需要は年間1000万台前後であり、この自然なペースで、あるいは地デジ対応を急ぐとしても年間1500万台前後の無理が少ないペースで地デジ計画を進めれば、国の地デジ関連予算を大幅に削減することができる。その削減分を、よりきめ細かい地デジ補助事業に使う、場合によっては地方弱小テレビ局やケーブルテレビなどへの支援に使うことが可能となる。

 追加の情報 

■次のリンク先を参照。

【10】いわゆる電波の「跡地利用」は、延期によって、新規事業の再考時間が生まれる。

■計画を延期すると、VHF帯を使うマルチメディア放送を計画している事業者からの反対が想定される。しかし、全国向けのV-High、地域ブロックでのV-Lowともにビジネス・スキームや具体的な計画のメドが立っていない。東京・大阪の民放ラジオ局による「ラジコ」の人気、マルチメディア放送における提供イメージと類似するiphone、ipadの隆盛とアプリケーションの豊富さなどを考えると、今後のマルチメディア放送については時間をかけて再考することが必要である。放送サービスには継続性が必要であり、いったん開始したサービスを事業採算性などによって停止することは、受信者保護の観点からも避けなければならない。「跡地利用」についての望ましい施策を実施するには、計画を延期したほうが、国民全体の利益につながると思われる。

(2010年7月17日 文責/坂本 衛、砂川浩慶)

※2010年7月17日の記者会見では、以上10項目の基礎的な資料をはじめ、さらに詳細で具体的な根拠を列挙し、地上デジタル放送完全移行の延期と現行アナログ放送停止の延期以外に選択肢がないことを主張しました。

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